ハイブリッドワークが可能な職では、そうした働き方が有力な選択肢の1つになっています。世界的に見ると、2023年4~5月の期間では被雇用者の25.6%がハイブリッド勤務をしており、7.9%が完全在宅勤務をしていました。
ハイブリッドワークは被雇用者の間で人気があります。英国のCIPDによれば、リモート勤務ができるかどうかが新たな職を探すときに重要になると答えた被雇用者は69%に上っています。また、求人サイトのMonsterが実施したアンケート調査では、米国の労働者の4人に1人以上が週5で出社するくらいなら痛い歯の治療を受けると回答しました。週に1日でも出社が義務になったら仕事を辞めることを考えると答えた人も、4割近くに達していました。
その一方で、雇用主はハイブリッドワークにあまり納得していません。Resumé Builderのアンケート調査では、90%が2024年末までにオフィスを再開する方針であるという結果が得られています。
労使間に期待の隔たりがあることは明らかですが、これを埋めるにはテクノロジーが有効です。複合現実(MR)と仮想現実(VR)はハイブリッドワークとリモートワークを変革しています。オンラインミーティングにおいても、制作プロジェクトにおいても、新しいスキルの習得においても、同僚が実際にそこにいるという感覚を得られ、仕事で力を発揮するために不可欠な親しみやつながりを感じられるようになっています。
テクノロジーの問題だけではありません。ハイブリッドワークの導入自体はそれほど難しくありませんが、ビジネスでそのモデルを機能させるには、諸事情を勘案してよく計画を練り、ばらばらの場所で働くことに対して戸惑う社員に新たなサポートを提供することが必要になります。
では、組織にフィットする効果的なバランスはどのように見つければよいのでしょうか。
ハイブリッドワークは、出社とリモートをミックスして両方の良いとこ取りを狙ったモデルです。例えば、週に3日は在宅勤務で残りの2日は出社する、あるいはリーダーが特定の曜日を決めてその日は対面のスタッフミーティングに参加してもらう、などが考えられます。このようなしくみにより、社員は在宅勤務で享受してきた柔軟性を維持しながら、コラボレーションや心身の健康に欠かせない、同僚との直接のつながりも持つことができます。
それでは、ハイブリッドワークモデルの種類をいくつか見ていきましょう。
組織として出社勤務を原則としつつ、リモート勤務を制度として残すモデルです。一部の社員には必要なときに必要なだけ在宅勤務を許可しますが、積極的には奨励しません。
ここ最近、インターネットの高速化、クラウドコラボレーションツールの登場、健全なワークライフバランスの重要性が盛んに叫ばれるなどの要因から、ハイブリッドワークの人気が高まっています。しかし、このスタイルが本格的に普及したのは、コロナ禍によりあらゆる企業で従来の働き方の継続を早急に断念する必要があったからです。
在宅勤務には、社員にとって失いがたいメリットがいくつもあります。企業が人材を獲得して維持するために、ハイブリッドワークを提供することの重要性が高まっているほどです。
よく練られたハイブリッドワークモデルは、コラボレーション、生産性、社員の満足度を高めるのに効果的です。ハイブリッドモデルを採用する6つの理由を、以下の各項目を展開して確認しましょう。
ハイブリッドな勤務形態は一見バランスが取れているように思えますが、欠点がないわけではありません。ハイブリッドモデルの課題としては以下の例が挙げられます。
ハイブリッドチームでの活動は、遠距離恋愛に近いものがあります。それを機能させるには信頼関係と定期的な連絡が必須です。常に一緒に仕事をしていれば、コラボレーションも、フィードバックも、助け合いも、ミーティングへの参加も、チーム内での強固な基盤の構築も比較的容易です。
また、全員がリモート勤務であれば、オンラインでのコラボレーションに慣れて、定期的な報告やオンラインチャットで連絡を取り合う習慣も身につきます。しかし、チームがばらばらになると、オフィス組と自宅組との間に断絶が生じることがあります。
職場での雑談が楽しいという人は多くいます。リモートで働く社員は、オフィス文化、自然発生的なコミュニケーション、チーム活動などから疎外されていると感じるかもしれません。出社したほうが交流が容易で、近況報告も手短に済み、仕事の後の「ちょっと一杯」も気軽に誘えます。ハイブリッドチームが直面する課題の多くは、要するにつながりにくさに関係しています。
リモートワークの社員のエンゲージメントを維持することは大変な作業で、時間もかかります。そのため、一部のリーダーは、このことについて十分に注意を払わない傾向があるようです。オフィスにいれば、仕草などから問題を察して必要に応じて手を差し伸べることもそこまで難しくありません。直接顔を合わせない場合、心の状態に気づくことがずっと難しくなります。
良しあしは別として、社員は在宅組より出社組のほうが優遇されていると感じることがあります。リーダーが、オフィスで「見かける」社員のほうが熱心と見なし、より手厚くサポートするかもしれません。リモートワーカーは、オフィスにいる人よりも目立たないため、研修や昇進の機会から遠ざけられていると感じるかもしれません。そのため、ハイブリッドな職場では公平性を育むことが非常に重要です。
これは、ハイブリッドワークの最大の課題の1つです。オフィスで同僚と過ごす時間が限られている場合、新入社員がノウハウを学ぶのが非常に難しくなります。それだけでなく、同僚との絆を築くことも、対面での交流がなければより困難なものとなります。その結果、孤独感や不満を覚える可能性があります。
社員が常日頃から物理的に同じ空間で過ごす場合と比べて、組織への帰属意識が弱くなるかもしれません。リモートワーカーが「人とのつながりが希薄」「蚊帳の外に置かれている」「あまり貢献できない」などと感じ、最終的に、会社になじめないと感じてしまう可能性があります。チームメンバー全員に、お互いの成果や会社の成果にしっかり関われていると感じさせる必要があります。
ハイブリッドな職場環境を管理する際には、これまで考慮する必要がなかったようなことも、いくつか考える必要が出てきます。大きなものとしては、物理的な空間が挙げられます。例えば、社員が全部で150人いるとして、その全員が同時に出社できる建物は必要ないでしょう。
火曜日と水曜日しか出社しない社員もいれば、週末シフトの社員もいるでしょうから、全員分のデスクを用意するのではなくフリーアドレス制にしてもいいかもしれません。従業員がいつ出社するのかを正確に把握し、ニーズに合ったスペースを見つけることが重要です。
ハイブリッドな働き方でもうまく機能するように物理的な職場の変革に取りかかっている企業は多く、現代のオフィスは、出社を基本とするかっちりとした職場ではなく、コラボレーションやチームビルディングに適した柔軟な空間へと移行しつつあります。
出社したときに最大限効果的にコラボレーションできるように、交流スペースを広く取ってもいいでしょう。あるいは、顧客の応対に利用できるハブや、対面やオンラインでのミーティングに使用できる設備の整った会議室を用意することもできます。
在宅と出社の比率を各自に判断させて後は成り行きに任せるのではうまくいきません。しっかりとしたハイブリッド勤務戦略を策定する必要があります。考えるべきことをいくつか紹介します。
社員に期待することをポリシーとして明文化しましょう。リモートワークを許可される社員と許可されない社員がいる場合は、その決定の根拠を伝えて、対立や反感が生じるのを避ける必要があります。例えば、以下のような点について説明が必要です。
出社すべき日数
オンラインよりも対面で行うことが適している業務
ミーティングやコラボレーションのために同じ時間にオフィスにいるべき社員
最適なハイブリッドモデルが見つかるまで、新しいポリシーについてフィードバックを募り、微調整をしながら進めていくことが重要です。
多くの企業でシフトパターンに応じたスケジュールがあるように、ハイブリッドワーカーにも同様の検討が必要です。これにより、出社する人の組み合わせがいつも同じになったり、1人だけ出社して他の全員が在宅だったりという状況を避けることができます。
スケジュールには、社員の勤務場所だけでなく業務内容も記入できるため、全員が共通の認識を持つことができます。または、共有カレンダーを使って互いの出社予定日を把握するのもよいでしょう。
チームリーダーは、どのような仕事がオフィスや自宅の環境により適しているかに基づいて、スケジュールを最適化するとよいでしょう。
非同期タスクとは、データ入力や1人でのプレゼンなど、他の人のインプットを受けずに完了できるタスクのことです。これは、邪魔されずにまとまった時間を確保できる、自宅での作業に最適なタスクです。一方、同期タスクはオフィス環境に向いています。グループでのコラボレーション、ブレーンストーミング、意見交換、あるいは創造力が必要とされる作業です。
信頼は、あらゆるハイブリッドな職場環境の基盤です。パンデミック時に在宅勤務が成功した後も、一部のマネージャは、リモートワーカーがその自由を利用してよく怠けていると考えています。マネージャは、リモートワーカーを信頼して、彼らが仕事を成し遂げることを信じ、マイクロマネジメントは控えなければなりません。
特に、いつもより長く働いて自分の頑張りを証明しなければと感じてしまいがちなリモートワーカーのためにも、マネージャとして放任することを覚えたほうが、職場環境はずっと穏やかになります。とはいえ引き続き、社員が満足しているかどうかを定期的に確認する必要はあります。
リモートワーカーとのコミュニケーションは出社組とは異なるため、より多くの配慮が必要かもしれません。在宅勤務にどのように対処しているかや、IT機器や作業に適した椅子の提供、マインドフルネスのアドバイスなど、踏み込んだサポートは必要ないかどうかについて、より頻繁に確認した方がよい場合もあります。
ハイブリッドな職場環境における社員のエンゲージメントと士気について即座にフィードバックを得るため、定期的にパルスサーベイやざっくばらんな面談を実施することも有効かもしれません。正直に悩みを打ち明けてほしい旨を伝え、誰の意見にも耳を傾ける用意があることを示しましょう。
ハイブリッド環境において、どのようにインクルージョンを確保し、チームがシームレスに協力し合えるようにするかは慎重な検討が必要です。介護をしている人、ひとり親、障がい者など、主にリモートで働く人たちが脇に追いやられることで、元々あった不平等がさらに助長されることのないようにしなければいけません。在宅勤務者に対しては無意識のうちに偏見を抱いていることが多いので、在宅勤務者が「出社組と同じ機会が与えられ、同じように大切にされている」と感じられるようにしてください。
また、新入社員が仲間外れにされ、人間関係を築けなくなることがないよう、マネージャは新入社員のオンボーディングに特に気を配る必要があります。最初のうちは、ハイブリッドな職場に溶け込めるよう、指導したり質問に答えてくれたりする同僚の隣でほとんどの時間をオフィス勤務させるのがいいかもしれません。